2007年03月22日

猪口艦長の遺書

その全文を書き留めておきたい誘惑にかられる。

私情にわたるものは、微塵もないのに驚かされる。

 
  十月二十四日
  予期の如く敵機の触接を受く。・・・・
  遂に不徳の為、海軍はもとより全国民に絶大な期待を
  かけられたる本艦を失ふこと誠に申し訳なし。

この言葉につづくのが、

  唯本海戦に於いて他の諸艦に被害殆んどなかりし事は
  誠に嬉しく何となく被害担任艦となり得たる感ありて
  この点幾分慰めとなる。

つまり、敵の襲撃が「武蔵」に集中したことで、艦隊全体の被害が少なかったことを、せめてもの慰めだと・・・

続いて本海戦(米側呼称シブヤン海海戦)の、対空射撃の威力発揮が不十分であったことを、「各艦とも下手の如く感ぜられ自責の念に堪へず」、申し訳なし、と謝っている。
猪口艦長が、海軍きっての砲術の大家として、多くの教え子を育てたことから出た言葉であろう。
教え子たちの拙きは、師である自分の責任である、と。

  どうも乱射がひどすぎるからかえって目標を失する不利
  大である。遠距離よりの射撃並みに追い撃ち射撃が多い。

被害大となると、どうも口やかましくなるが、それも不徳の致すところで慙愧に耐えない、と謝っている。が、これらのことは次にはこのことに注意せよという、砲術の先生としての教訓であろうか。
艦長が遺書を書くときの状況を考えれば、驚嘆に値する。

そして、最初に主方位盤が使用不能になったことは大打撃であったと述べて、
  
  主方位盤はどうも僅かの衝撃にて故障になり易いことは
  今後の建造に注意を要する点なり。

なお、これから先の海軍の建艦への留意点を、書き残しているそのプロフェッショナル魂に敬服するのほかない。
航空魚雷のこと、敵機の戦法など戦訓を簡潔に綴ったあと、

  最後迄頑張り通すつもりなるも今の処駄目らしい。
  一八五五。
  
暗がりで思うように書けないと・・・

  最悪の場合の処置として御真影を奉還すること、軍艦旗
  を卸すこと、乗員を退去せしむること、之は我兵力を維
  持したき為生存者は退艦せしむる事に始めから念願。
  悪い処は全部小官が負ふべきものなることは当然であり、
  誠に相済まず。
  我斃れるも必勝の信念に何等損する処なし。
  我が国は必ず永遠に栄え行くべき国なり。
  皆様が大いに奮闘してください。最後の戦捷をあげられ
  る事を確信す。

そのあと戦死した英霊を慰めてやりたいこと、「武蔵」の損失が大きいことで、味方の士気への影響まで気にかけている。
そして、これまでの恩顧を謝し、私ほど恵まれた者はないと日ごろから感謝に満ち満ちていた、と。

  始めは相当ざわつきたるも、夜に入りて皆静かになり
  仕事もよくはこびだした。
  今機械室より総員志気旺盛を報告し来たれり。一九〇五
  
「武蔵」沈没の三十分前・・・
乗組員たちの様子が髣髴として、胸を衝かれる。


私事は半句もない。

加藤副長の写しを引用した記者がそう書いている。

猪口艦長の遺書の手帳の運命は・・・






ラベル:責任
posted by shuuin at 18:10| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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